interview

2010


小橋川啓さん・戸ヶ瀬哲平さん

KOBASHIGAWA Kei ・TOGASE Teppei

小橋川 啓(以下k)

1983年 沖縄県生まれ

沖縄県立普天間高校卒琉球大学附属小学校勤務

現在、那覇特別支援学校美術教諭 

「830+展」2005年/沖縄県那覇市

「小橋川啓展」2006年/前島アートセンター


戸ヶ瀬 哲平(以下T)

1982年 宮城県仙台市生まれ

仙台高等技術専門学校広告美術科修了美咲特別支援学校高等部勤務

現在、島尻特別支援学校中学部美術教諭

「こんなハピネスもう嫌だ展」宮城県仙台市

「桐生再演13」群馬県桐生市

「shifting border」沖縄県那覇市

「マイクロな世界」(企画)沖縄県那覇市 



Q:現在のお仕事の様子(どこで、どんなことをされているか)をお聞かせください。

K:那覇特別支援学校勤務。学校は肢体不自由(皆車いす)の子どもたち。あまり動けない子たちなので介護的な部分が多くて、いわゆる美術の先生という感じではないけど、また違う面白いことがいっぱいでとても楽しい。体のこと(理学療法のまねごと、健康を保つためのケア)や、日常的ケア(食事介助や排泄介助etc.)、五感を刺激する活動(これが1番美術っぽいかな)が主な授業。

T:美咲養護学校、島尻特別支援学校という知的障害の特別支援学校で美術教諭をしています。普通校の美術と違って、特別支援学校の生徒には、教えるというより色々な素材を使いながら作品に没頭させていく環境づくり、といったところです。授業を進めていくと1つのクラスで全員違う制作をしていたりします。毎日笑っているので働いている感覚は授業ではありません。

Q:なぜ琉大の美術教育専修に入ろうと思ったのか、また、受験にあたってどんな勉強をされたか、お聞かせください。

K:美術の色々なことをやったことが無く、入る前に専門を決めることに抵抗があったので。あと試験問題が面白かった。過去問を見る限り対策はあまり取りようがないと思えたので、本をちょっと読んで、音楽をいっぱい聴いて、デッサンや立体の練習をちょっとやって、感度を上げるよう努めました。

T:特にどういう大学かは知りませんでした。専門学校を卒業後クレープ屋さんで働いていて、とにかく働かずに済むように大学に入ろうと思い、帰れない場所に行きたくて(実家が宮城県なので)琉大を選びました。受験勉強は独学でやりました。なぜか途中までドイツ語を勉強していました。美術の勉強は一切していません。

Q:琉大での学生生活はいかがでしたか?研究活動や友人関係、教員との関係等、印象に残っていることがあれば教えて下さい。

K:少ないメンバーで寂しい部分もあったけど、ステキな人にもいっぱいあえたので良かったです。あと、先生は今でもつながりがある方が多くて、この距離感はいいなって思います。教育学部以外の先生もヤバい人がいて、個人的には社会学の先生、生物の先生、フランス文学の先生とか美術専門じゃない先生にもお世話になって、それが表現に還ってくるので総合大学のいいとこかなって思います。

T:やりたい放題やっていたので、ストレスなく学生生活ができました。いわゆるキャンパスライフ的なことはやっていなかったので、今思うとテニスサークルとかで、へらへらしておけば良かったです。美術に関しては、それまでの美術(油絵や彫刻)ではなく自分自身に向き合うことが出来て飽きずに勉強出来ました。友人はいませんでしたが、大学の先生が子どものハートを持っていたので問答をしながら成長出来たのかなと思います。大学に入りたての時に、先生から『お前の作品にも、お前自身にも期待していない!』と言われたのが印象的です。その先生の鼻をへし折ることも僕の大学生活の張りとなっていました。

小橋川啓作品


戸ヶ瀬哲平作品

Q:琉大卒業後のこと、お二人で活動をするようになった経緯を教えて下さい。

KT:二人とも学校で美術/図工を教える立場になってお互い何かムラムラしていたんでしょうね。学生時代から気があっていたので、なんか面白いことしようと二人で活動するようになりました。はじめは、wanakioという沖縄のアートフェスへの参加です。このアートフェスには批判的な立場だったのですが、文句たれるより面白い作品をつくってしまおうという思いが強かったです。その後、美術を舞台とした表現と同じモチベーションで、美術教育をもっと面白いシーンに(実際教育は面白い)と思うようになり、「いろんな場所で生まれる美術」というのも二人でやっています。

Q:現在お二人で行っている「いろんな場所で生まれる美術~美術というクリエイティブ、教育というクリエイティブ~」という企画について、教えて下さい。

KT:美術と教育を繋げていく。学校種を超えた美術/教育関係者のネットワークを作って美術/教育シーンを面白くする。そうなっていけば子どもにもっと面白い美術/教育を還元できるんじゃないかと。その為に美術/教育なメンバーを集めたメーリングリスト構築や、美術/教育なシンポジウム開催、そしてそれらのアーカイブ作成をしています。今後は学校もアートシーンもごちゃまぜで制作/展示を行う予定です。もっと面白くて刺激的なシーンになるきっかけになれればなと思っています。

Q:改めて、沖縄という場所をどのように感じられますか。また、そこで創作活動を続けて行くこと、教育現場に携わることについて、感じていることをお聞かせください。

KT:そこらにいるおっさんや街から東南アジアだなーって思う瞬間がある。むき出しの部分がけっこうあるなと感じますね。いわゆるアートシーンがそんなに市民権を得てる感じはしないけど、だからこそ美術館などのスペースを飛び出した活動とかが盛んなんだろうなと思う(それも市民権どころじゃないですけどね)。教育現場にいる事で創作活動と教育活動が互いにフィードバックしていって自分たちも成長できるし、面白い制作/教育ができるかなと。それが美術/美術教育の理解にも繋がったらいいな。

Q:後輩達へのメッセージをひとこと、お願いします。

K:打てば響く。

T:せっかくだからとりあえず。面白いことはまよってないでチャレンジしてみて下さい。知識ばっかりの人、文句ばっか言ってる人、つぶやいているだけの人になるともてないよ。


小橋川啓・戸ヶ瀬哲平

 

2008年のユニット結成。考古学的プロジェクトやアニメーションを、地域に入り込んで制作。2009年からは美術教育を舞台として、カッコいい美術教育を追求。チャレンジ精神を持って興味のあることをいろいろやっている仲良し二人組。

<活動歴>荻堂貝塚再発掘調査08:wanakio2008/沖縄県北中城村/2008、銅天街リフレイン:コザクロッシング(AAF)/沖縄県沖縄市コザ/2008、KOZA十字路-改變中的風景-藝術祭文件展/台北/2009、いろんな場所で生まれる美術~美術というクリエイティブ、教育というクリエイティブ:21世紀おきなわ子ども教育フォーラム/2009~、迷子の子猫と居眠りドッグ:Home 沖縄・イギリス交流映像展/沖縄/2010、タイトル未定:コザクロッシング2010/沖縄県沖縄市コザ/2010

 

「荻堂貝塚再発掘調査08」報告書

「美術の先生は何を考えているのか。」シンポジウム報告集