2010年度 卒業・修了研究


大学院 教育学研究科

茅根 大輔

 

老いと少年性の記憶

 

 老いた父が亡くなって1年が過ぎ、沢山の形見の品が遺された。その時、初めて父がモノになってしまったという感覚を覚えた。

 しかし、遺されたモノを一つ一つ見ていくと、私と父の記憶が炙り出されるように浮き上がってきた。  その記憶は極めて個人的で、私と父以外には全く知り得ない、私の少年期と若き日の父の少年性の記憶なのだが、私にはその記憶の方が、写真として遺されている父の姿よりも確かな存在感と人間性を保持しているように感じられた。

 老朽化したモノには様々な思念や愛着が宿ると言われるが、そういった表現のレベルを超えて、これらの形見の品からは、モノとしてのはっきりとしたつながりが感じられる。

 

形見

ライトボックス、木、アルミホイル、電灯、アクリル板

H218×D918×D350(cm)


教育学部 美術教育専修

市村 友実

 

存在と存在感

 

 私の中に当たり前に感じている存在や存在感が本当に当たり前なのかという疑問があった。そして情報という存在がそれを解くカギになるのではと考えた。それはあまりにも身近に溢れかえっているため、その存在を敢えて意識することができない。けれど、気づかないうちに情報のみで物事の大部分を理解した気持ちになりやすい。

 日常品に穴をあけるという情報の欠如により、日常品の形状・用途としての存在だけではなく、その物の成り立つための見えない背景の存在感や「画面の向こう側」に対する不安感が見えてくるのではないかと考える。そこから、もう一度「当たり前」考え直してみようと試みた。

向こう側(部分)

日常品/インスタレーション

50個


當間 美紀子

 

雲を掴む

 

2年前、ある作家の雲が描かれた絵を見た事がきっかけで、雲を描く事が多くなった。何故か雲にこだわる自分がいた。

雲を描いているうちに、いつのまにか遠い記憶が蘇っていた。

初めて飛行機に乗り旅行から帰って来た時、母に「雲を触ったよ」と嘘をついた。

嘘をついた罪悪感からか今でもそのことを鮮明に覚えている。

気づけば一年以上も雲を追いかけている。

母についた嘘が無意識に影響しているのか、全く関係ないのかもわからない。

 

見えるのに届かない雲 触れないけど触りたい雲

もしも掴みとれるなら自分のものにしたい雲

 

今、思うままに雲を追いかけ、変わりゆく雲を掴み取り収集していきたい。

雲の巣箱

ワイン箱、木、アクリル板、メディウム


苗代 築

 

不自然美

 

私は幼い頃から、マネキンなどの人形に強い存在感を感じていました。それらの、身体に対する理想が誇張された不自然な形体と、生と死が共存している不自然なあり様に、魅力を感じます。

不自然で且つ美しく、あるいは醜と美が共存するようなフェティッシュな形態を、人体をメインに制作しました。

leg , arm , upper arm , finge

石塑粘土、スチレンフォーム、油絵の具

4個


仲村 葵

 

やすらぎ

 

紙本来が持つやわらかさ

光で照らされることによって、紙はいっそう暖かみを持ちやすらぎを与えてくれるものとなる。

 

ちぎることによってできるほつれ。

貼り合わせることによってできる重なり。

光が透過することによって生まれる陰影。

個々の作品が織り成すらせん状のつながり。

らせんから得られる包み込まれる感覚と天に昇っていく感覚・・・

 

この空間の中で一人でも多くの人に自分にとってのやすらぎを見つけ感じてほしい。

やすらぎ-⑤-

半紙、パラフィン紙、純白ロール紙、糊、てぐす

(紙をちぎり合わせたもの数点を吊るしたインスタレーション)


西園 美咲

 

はっしょう(発症・発祥)

 

「発症」は病の発症、「発祥」は作品の起こりである。

 

病に冒された場合に感じる苦痛には三通りある。病状自体による苦痛、薬の副作用による苦痛、そして他者の視線を浴びることによる精神的な苦痛。

 

それらを、他人に伝える、きれいなものにする、楽しむことが出来るようにする事によって昇華したい。

コルセット「制圧/圧迫」薬のから、コルセット、糸28×21×37(cm)

手錠「抑制/抑圧」薬のから、合成皮革、南京錠、鎖、糸各7×8×5(cm)


山城 まき乃

 

あの子の声がする

 

制作を通じてしか知り得ないものを知りたい。

 

作ることの喜びを知る「あの子」を想定し、その子との関わりのなかで制作を続けました。

 

「9がつ 22日」「9がつ 30日」「9がつ 23日」「5がつ 1日」「8がつ 27日」「5がつ 2日」/ 「日記帳」

油彩(F8号×2,  F12号, F10号,F20号, F30号) 合計6枚,

メートB5サイズ 2冊


教育学部 島嶼文化教育コース

芝田 奈保子  

 

「ものの表情を撮る」

 

“偶然に生まれたものが持つ美しさ”に私は惹かれる。

 

「偶然に生まれた表情のあるものを自分の手で捉えていきたい。」という思いから、その時・その場所・その色でしか存在していない、日々変化していく様々な色や表情を発見し、撮っていった。

 

私の見つけた様々な表情が、ひとつひとつの写真に収められている。


カラープリント

幅600×高さ150(20cm×20cm 160枚14cm×14cm 110枚)

※写真は作品から一部抜粋


菅谷 聡

 

『ことばへの抵抗、服従、もしかしたら和解』

 

 「ことばへの抵抗か、服従か」〜画面から流れるナレーション。その内容を書いた静止画が連続して映し出される。

 

「会話、和解」〜一ヶ月間録音した様々な会話や音声を細切れにして、繋ぎ合わせる。

静止画・音声

(50×50×60以内 , 台の高さ100前後)


辻本 あまね 

 

土と光と影

 

土 光 影毎日目にする彼らが作り出す。はっきりとした、くっきりとした、しかしなんだかぼんやりとするそんな世界を観てほしい。

土と光と影

園芸用赤玉土+弁柄、LEDライト、白熱灯光ランプ、透明ビニールシート、アクリル板、ジョーゼット、杉


仲村 優希

 

関係の形

 

心の中は関係だらけ


紙、ボールペン


永山 卓弥

 

染色と音楽

 

織るという行為には織り耳を整える、一定のリズムで織る、織り幅をそろえる、生地を均等に織る、といった様々な制約がある。しかし、音楽を聴いて自分の中から湧き出る感情のままに織るということは、その制約を守る必要もなければ、きれいに織る必要もない。 

 

織りと染めの制約にとらわれず、私が感じる音楽の印象を気持ちのままに布にぶつけた。

 

私が感じる音楽を感じてほしい。

BEGINNING(部分)

木綿、シリアス染料、アクリルガッシュ/平織り

39,5cm×1130cm 


比嘉 知有美

 

パズル 〜ノッティング技法によるパズル制作〜

 

 ノッティングとは、絨毯(じゅうたん)やマットなどをつくるときの技法である。初めてクッションを制作したとき、オリジナルの図案が徐々にクッションに変化していく面白さに惹かれ、卒業制作の研究内容として取りあげた。1つのクッションを1ピースに見立て、複数枚制作することで「パズル」を表現した。かつて沖縄の風習として施されていたハジチ(針突)の模様を黒色で表し、背景のデザインをオリジナルにしている。本作品は6枚のパーツで1つの図案を形成しており、計6つの図案で36枚のパーツから成る。これらは、自由に組み合わせることが可能であり、様々なデザインを表現することができる。また、用途や空間に合わせてクッションや敷物としても使用でき、日常生活の中でも活用することができる。

パズル

 木綿/ノッティング技法

縦39cm×横39cm/縦117cm×横78cm